勝負は最後の最後までわからない。
昨年もこう書きましたが、今年はまさにそれを絵にかいたようなことが今日おこりました。
今日のスーパーG、種目別トップのディディエ・キューシュは15位に入れば昨日に続いて、ダウンヒル、スーパーG2種目の種目別チャンピオンが決まるはずでした。
今シーズンの調子からいって、キューシュの15位以内はまさに「鉄板」と思われていました。
しかし、種目別優勝のクリスタルトロフィーはそのキューシュの手から滑りおちていきました。
劇的な大逆転優勝を飾ったのは、昨日まで種目別3位だったハンネス・ライヘルト。キューシュとは99ポイント差。
「かろうじて可能性はあるけどね」くらい可能性はありませんでした。
私はコース中盤で撮影していたので、ここからはリザルトから見る想像ですが、ハンネス・ライヘルトはディディエ・キューシュがゴールしてタイムがあまり良くなくても、まさか自分に種目別優勝がころがりこむとは考えてもいなかったと思います。
しかし、ライヒとイエルマンがキューシュのタイムを抜かしたあたりから
「もしかして」
と思い始めたかもしれません。
25番スタートのクリストフ・インナーホッファーがキューシュのタイムを上回って、その時点でキューシュは15位。残りは2人。
最終戦は15位までしかポイントがつかないため、あと一人、キューシュのタイムを上回ると、ライヘルト1位で100点、キューシュ16位で0点。
99点差をひっくり返す、劇的なドラマの舞台が唐突にゴールエリアに出現したのです。
そして、その劇的なドラマに終止符を打ったのは、皮肉にもキューシュと同じスイスチームの同僚、26番スタートのダニエル・アルブレヒトでした。
彼がキューシュのタイムを上回ってゴールした瞬間、ハンネス・ライヘルトのわずか1ポイント差での種目別優勝が決まりました。
劇的な、劇的すぎる幕切れでした。
表彰式、ハンネス・ライヘルトは終止笑顔でしたが、オーストリー国歌が流れると、目に涙がうかびました。
普段より2テンポも3テンポもゆっくりと、荘厳に流れたオーストリー国歌は、彼の涙腺を緩ませたのかもしれません。
勝負にたらればはありませんが、もしキューシュがあと0秒14速かったら、当然のように彼の手に2個目のクリスタルトロフィーが渡るところでした。そして、ライヘルトがあと0秒02遅かったらこの奇跡は起こりませんでした。
勝負は本当に最後の最後までわからない。明日もなにが起きるかわかりません。
わずか1ポイント差で種目別優勝を逃したキューシュ。もし昨日レースがあって滑っていたら、こんなことにはならなかったかも。あ、それは勝負ごとには言いっこなしですね。